日々の診療の中で、「うちの子、社交不安障害じゃないでしょうか」「選択性緘黙(かんもく)かもしれません」と心配され、思春期のお子さんと一緒に精神科を受診されるご家族は少なくありません。
もちろん、強い対人緊張があったり、神経発達症(発達障害)の特性から社会性が低下していたりするケースもあります。しかし、必ずしもそういった病気や障害が原因ではないことも多いのです。
ここでは、ある架空のケースを通して、思春期の子どもとの関わり方について考えてみましょう。
心配でたまらない母親と、無口な子ども
母親とともに来院した中学3年生のAさん。お母さんは大変心配そうなご様子で、こう語りました。
「小学校の頃から人前であまり話さず、友達も習い事先に数人いるくらいでした。中学生になってからは家でも口数が減り、今は進学塾にも行きたがらず自分の部屋にこもりがちです。このままでは受験どころか、社会に出て生きていけるのか心配で……。今はスマホのGPSで居場所を確認していますが、高校生になったらさすがにやめようとは思っています」
実際、お母さんがお話しされている間、Aさんは一言も発しませんでした。私がAさんに質問をしても視線を合わせず、わずかな沈黙に耐えきれなくなったお母さんが代わりに答えてしまうという状況でした。
そこで、私はAさんと二人だけでお話ししてみることにしました。
母親が退出すると見えてきた「本当の気持ち」
お母さんが診察室から出ると、なんとAさんはすぐに話し始め、流暢に自分の気持ちを教えてくれました。
「最近、お母さんが鬱陶しいんです」
Aさんの抱えていた思いは、次のようなものでした。
- 友人関係について 小学校の頃は普通に友達と遊んでいたが、親の勧めで習い事をたくさんしていたため、遊ぶ時間が少なかっただけ。お母さんと一緒にいると全部お母さんが話してしまうので、自分はあいさつ程度しかしない。
- 家庭での様子 家でも常に口出しされる。ソファで少し休んでいるだけで「学校はどう?」「習い事は楽しい?」と聞かれたり、片付けや料理をしていても「それはこっちにしまった方がいい」「違う違う、貸してごらん」「大丈夫?できる?手伝おうか?」と横から言われたりするので、やる気がなくなる。
- 塾について 本当は友達と同じ近くの塾に行きたかったのに、「あっちの方が成績が上がる」と親に遠い塾を決められた。知らない人ばかりで、すでにグループもできているため楽しくない。
原因は「ヘリコプターペアレント」
このケースから見えてくるのは、親が子どもの近辺でいつも見守り(監視し)、何かあればすぐに介入する「ヘリコプターペアレント(過干渉な親)」になってしまっている状態です。
Aさんは、自分の意思や選択が尊重されないことが繰り返された結果、親から距離を置きたくなっているだけでした。思春期特有の「親への自己防衛」も重なって無口になっていたのであり、心の病気や障害が原因ではありません。
知的な問題もないAさんには、自信を持てるように精神療法を行いました。そしてお母さんには、本人を信じて「任せる」「見守る(放っておく)」といった、子どもの自己肯定感を育てるような関わり方を心がけてほしいとお伝えしました。
お母さんご自身には過干渉の自覚があまりなく、納得しきれない部分もあったようですが、「精神疾患ではない」という事実には安心されていました。
思春期の変化は、温かく見守ることが大切
思春期になると、子どもは急激な体の変化や「自分」という意識の芽生えから、他人の目を強く気にするようになります。そのため、もともと人見知りでなかった子でも、中学生くらいから急に無口になったり、新しい人間関係を避けたりすることがあります。
これは思春期特有の正常な自己防衛であり、ある程度は誰にでも起こる変化です。無理に干渉せず、温かく見守っていれば問題はありません。
ただし、人間関係を避ける原因が「人前に出るのが過剰に怖い」「友達を自分から誘えない」といった強い緊張や不安からきている場合は注意が必要です。本人がその「人見知り」のせいで生活に困り感や生きづらさを抱えているのであれば、適切なサポートをして改善を図ってあげることが大切です。
子どもが急に無口になったとき、まずは「口出ししすぎていないか」「本人の意思を尊重できているか」を振り返り、見守る姿勢を持つことから始めてみてはいかがでしょうか。



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