こんにちは、Dr.流星です。
子どもの睡眠について、「何時間寝かせればいいの?」「昼寝は必要?」と迷ったことはありませんか?
実は私自身、精神科医として大人の睡眠には慣れ親しんでいたものの、わが子の子育てとなると「この年齢では睡眠はこれでいいんだっけ?」と戸惑うことがありました。
子どもの睡眠は年齢ごとに大きく変化し、正しい知識がなければ不安になるものです。
子どもの成長や健康には十分な睡眠が欠かせません。
本シリーズでは、新生児(0〜3か月)から高校生(16〜18歳)までの各年齢層について、①必要な推奨睡眠時間、②理想的な就寝・起床時間帯、③昼寝の必要性、および④睡眠不足や過剰睡眠が発育・認知・情緒・行動・生活に与える影響を、それぞれの年齢ごとに詳しくまとめます。
まずは、全年齢に共通していることからみていきましょう。
共通事項
各年齢段階で共通して言えることは、適切な睡眠習慣(十分な睡眠時間の確保と規則正しい就寝・起床リズム)が子どもの健全な発育・発達に不可欠だという点です。睡眠中には成長ホルモンの分泌や記憶の整理、細胞の修復が行われ、心身の成長を支えます。そのため、慢性的な睡眠不足は身体的成長の遅れ、認知機能の低下、情緒面の不安定、問題行動の増加、生活習慣病リスクの上昇など多岐にわたる悪影響を及ぼします。一方で過剰な睡眠も、子どもの場合は多くありませんが、極端な長時間睡眠は何らかの不調(倦怠感や無気力感など)を示す可能性があります。子どもの年齢に応じた適切な睡眠時間と生活リズムを家庭・学校で支援し、「寝る子は育つ」という言葉通り十分な睡眠をとることが、子どもの健康な発育・学習・生活の土台となります。
新生児(0〜3か月)
推奨睡眠時間
新生児期の赤ちゃんは一日合計で約14〜17時間眠ることが推奨されます。米国小児科学会によれば、新生児は1回あたり1〜2時間しか連続で眠れず、昼夜を問わず数時間おきに目覚める不規則なリズムです。生後間もない赤ちゃんにとって「睡眠が仕事」と言えるほど長時間の睡眠が必要であり、この時期は授乳やおむつ替えで頻繁に起きるため断続的な睡眠パターンになります。
理想的な睡眠時間帯
新生児には明確な就寝・起床時間のリズムはまだ確立していません。生後半年頃までは規則正しい睡眠サイクルが発達しないため、理想的な睡眠時間帯という概念は当てはめにくいです。ただし昼は適度に明るく活動し、夜は暗く静かな環境を整えることで昼夜の区別を促し、生体リズムの発達を支えることが推奨されます。授乳間隔に応じて2〜3時間ごとに起きる中でも、夜間は照明を落とし、大きい音を立てないなど刺激を減らすことで、徐々に夜に長く眠るリズムを育てます。
昼寝の必要性
新生児期の睡眠は昼寝と夜の区別がなく、1日の大部分を小刻みな睡眠で過ごします。従って新生児における「昼寝」は特別なスケジュールではなく、1日の睡眠サイクル全体が複数回の睡眠エピソードで構成されています。授乳後や抱っこの最中など随時眠りに落ちるのが通常であり、この時期は赤ちゃんの欲求に従って寝かせることが大切です。
睡眠不足・過剰睡眠の影響
新生児は必要なだけ眠る傾向がありますが、極端に睡眠が不足すると機嫌の悪化や授乳リズムの乱れにつながる可能性があります。睡眠が短すぎて泣いてばかりいる状態が続くと、十分な授乳ができず成長に影響する恐れもあります。また、反対に長時間起きずに眠り続ける場合、授乳間隔が空きすぎて栄養摂取が滞り体重増加不良を招く可能性があります。適切な睡眠と覚醒のリズムを整えることは、新生児の脳と身体の健全な発達に重要です。この時期の睡眠は脳の発達と深く関わっており、睡眠中に分泌される成長ホルモンや記憶の形成が新生児の発育を支えていると考えられます。例えば、生後6か月〜1歳の乳児を対象とした研究ではありますが、学習後4時間以内に30分以上の昼寝をとった乳児は、昼寝をとらなかった乳児より新しい行動を記憶する能力が優れていたことが示されています。このように、新生児期から十分な睡眠を確保することが、その後の認知機能の発達基盤になると考えられます。
乳児(4〜12か月)
推奨睡眠時間
生後4か月を過ぎると睡眠パターンがやや整い始め、乳児期(4〜12か月)では1日あたり合計12〜16時間の睡眠が推奨されます。この推奨値には昼寝も含まれており、個人差はあるものの半日以上を睡眠に費やすのが望ましいとされています。世界保健機関(WHO)も同様に、生後4〜11か月児で12〜16時間程度の良質な睡眠が必要だと勧告しています。この時期の乳児は、新生児期よりも覚醒時間が延び日中に活動できるようになりますが、それでも成長に見合った十分な睡眠量が不可欠です。
理想的な睡眠時間帯
乳児後半には夜間の睡眠が次第にまとまって長くなり始めます。生後6か月頃になると夜通し6〜8時間続けて眠る乳児も現れ、生活リズムが整ってきます。理想的には夜間の睡眠が約9〜11時間、日中に数回の昼寝というパターンが目標となります。日本の小児科専門医によれば、将来の生活リズムを見据えて朝7時までに起こす習慣を付けることが重要であり、必要な睡眠時間(例えば夜間平均10時間)を確保するには「遅くとも夜9時までに就寝」が理想的だとされています。実際には個々の乳児のリズムによりますが、夜はできるだけ早めの就寝を習慣づけ、朝は一定の時刻に起こすことで安定した昼夜リズムを育てることが推奨されます。
昼寝の必要性
この時期は昼寝が発達に必要不可欠です。4〜12か月の乳児は通常1日2〜3回程度の昼寝をとります。例えば午前と午後にそれぞれ1〜2時間程度眠ることが多く、夜間の睡眠と合わせて推奨される総睡眠時間を確保します。米国の小児睡眠ガイドラインでも、「乳児は夜間睡眠だけでは必要な睡眠量を満たせないため、日中の複数回の昼寝で補う」としています。生後半年〜1年にかけては徐々に昼寝の回数が減少し、1回あたりの昼寝時間が長くなる傾向があります。多くの乳児は生後9〜10か月頃には朝夕2回の昼寝になり、1歳を過ぎる頃には1日1〜2回の昼寝に移行します。
睡眠不足・過剰睡眠の影響
乳児期の睡眠不足は、機嫌の低下や食欲不振など日常の行動に直ちに影響します。睡眠が不十分な乳児は日中にぐずりやすく、注意力が散漫になり刺激に過敏になることがあります。また、この時期の脳は急速に発達しているため、慢性的な睡眠不足は脳の発達や学習能力に影響し得ます。例えば、乳児期の短い睡眠時間は、その後の幼児期における認知発達の遅れや問題行動と関連する可能性が指摘されています。一方、過剰な睡眠については、基本的に乳児は自ら必要なだけ眠るとされますが、極端に長時間眠りすぎる場合には授乳量の低下や発達の遅れが懸念されます。特に日中長く寝すぎて夜間の睡眠リズムが崩れるといった場合には注意が必要です。適切な昼寝を含む睡眠をとった乳児は、学習した内容の記憶保持が良好で情緒も安定しやすいことが研究で示されており、十分な睡眠確保がその後の言語習得や運動発達を促進すると考えられます。反対に慢性的な睡眠不足が続けば、後の発育段階で肥満のリスクが高まることも報告されています(乳幼児期の短時間睡眠は小児肥満のリスク因子)。このように、乳児期には長時間の良質な睡眠と適度な昼寝をバランスよくとることが、健全な発達の土台となります。
新生児(0〜3か月)
- 必要な睡眠時間: 1日14〜17時間。数時間おきに断続的に睡眠。
- 睡眠時間帯: 昼夜の区別はまだなし。夜は環境を静かにしてリズム形成を促す。
- 昼寝: 明確な区別はなく、1日のほとんどを断続的に寝て過ごす。
- 影響: 睡眠不足は機嫌・授乳リズムに影響。長時間寝すぎも栄養不足のリスク。
乳児(4〜12か月)
- 必要な睡眠時間: 1日12〜16時間(昼寝含む)。
- 睡眠時間帯: 夜9時までの就寝+朝7時までに起床が理想。夜間連続睡眠が徐々に形成。
- 昼寝: 1日2〜3回。月齢に応じて徐々に回数が減る。
- 影響: 睡眠不足は機嫌や学習力に悪影響。昼寝が多すぎると夜間のリズム崩れに。
次回は、子供の睡眠②1~3歳0か月をまとめていきたいと思います。
参考文献・情報源
国際機関・学会ガイドライン
- American Academy of Sleep Medicine (AASM). (2016). Consensus Statement: Recommended Amount of Sleep for Pediatric Populations. [Journal of Clinical Sleep Medicine, 12(6):785–786].
https://jcsm.aasm.org/doi/10.5664/jcsm.5866 - American Academy of Pediatrics (AAP). (2014). School Start Times for Adolescents. Pediatrics, 134(3):642–649.
https://doi.org/10.1542/peds.2014-1697 - World Health Organization (WHO). (2019). Guidelines on Physical Activity, Sedentary Behaviour and Sleep for Children under 5 years of age.
https://www.who.int/publications/i/item/9789241550536
日本の行政・学会資料
- 厚生労働省. (2023). 「健康づくりのための睡眠指針 2023(子ども編)」
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_32777.html - 文部科学省. (2022). 「子供の生活習慣と学習意欲に関する調査結果」
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/seitoshidou/1422155_00001.htm - 日本小児保健協会. (2016). 「子どもの睡眠と健康~小児科医がすすめる睡眠の知恵~」
https://www.jschild.or.jp/modules/publication/index.php?content_id=14
医学論文・研究報告(PubMed収載)
- Mindell, J. A., et al. (2015). Developmental aspects of sleep hygiene: Findings from the 2014 National Sleep Foundation Sleep in America Poll. Sleep Health, 1(1), 40–47.
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https://doi.org/10.5665/sleep.5552
補足的資料
- National Sleep Foundation (NSF). (2015). Sleep Duration Recommendations: Methodology and Results Summary.
https://www.sleepfoundation.org/professionals/sleep-duration - National Institutes of Health (NIH). (2011). Your Guide to Healthy Sleep.
https://www.nhlbi.nih.gov/files/docs/public/sleep/healthy_sleep.pdf