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子どもの睡眠 ④6~12歳頃

こんにちは、Dr.流星です。

前回までに、5歳頃までの子どもたちの睡眠について医学的な視点から見てきました。
今回は、6〜12歳、小学生の時期の睡眠に焦点を当てます。

小学生になると生活リズムが家庭ごとに大きく異なり、夜更かしが習慣になったり、朝の目覚めが悪くなったりと、睡眠に関する課題も徐々に表れてきます。しかし、この年代は心身の成長も著しく、十分な睡眠が学力や情緒の安定、体の健康に直結する大切な時期です。

「うちの子、睡眠時間が足りていないかも…」「遅寝早起きが続いていて心配」というご家庭にとって、今回の内容が少しでも生活改善のヒントになれば幸いです。

推奨睡眠時間

小学生年代にあたる6〜12歳では、1日あたり9〜12時間の睡眠が推奨されます。AASMの勧告では学童期の子どもは毎日9〜12時間程度眠ることが望ましく、規則正しい十分な睡眠が学業成績や健康状態の向上に寄与するとしています。厚生労働省も「小学生は9〜12時間程度の睡眠時間を確保すること」を推奨しており、これは各種研究で示されたエビデンスに基づいて設定された目安です。実際には高学年になるにつれ必要睡眠量は下限に近づく傾向がありますが、それでも最低9時間前後は睡眠時間を見込むべきとされています。十分な睡眠はこの時期の子どもの記憶の定着や注意力、運動技能の発達に不可欠です。日本の子どもは睡眠不足と言われる中、小学生の頃から睡眠時間を確保する習慣を身につけておくことが大切です。

理想的な睡眠時間帯

学童期には学校生活に合わせた生活リズムが求められます。理想的には夜21〜22時までに就寝し、朝6〜7時台に起床というパターンですが、現実には学年が上がるにつれて就寝時刻が遅くなる傾向があります。文科省の調査では、小学生でも22時以降に寝る子どもが増えており、それによって総睡眠時間が短縮する傾向が指摘されています。理想的な睡眠時間帯を確保するには、塾や習い事の後でもできるだけ早く帰宅して入浴・就寝の準備を整え、決まった時間までに床に就く習慣づけが重要です。厚労省の睡眠ガイドでは、「小学生は早寝・早起きが得意だが、中学以降は夜更かし・朝寝坊になりがち」であるため、小学生のうちに規則正しい生活習慣を確立しておくことが望ましいとされています。また、朝は登校時や通学途中にしっかり太陽の光を浴びることで体内時計がリセットされ、夜自然に眠くなるリズムができるとされています。週末も平日と極端にずれた生活をしないこと(いわゆる「社会的時差ボケ」を防ぐこと)も、小学生期の睡眠衛生として推奨されます。「朝に起きられない」という子はやはり就寝時間が遅いことが要因である場合がほとんどです。

昼寝の必要性

通常、学童期の子どもは昼寝の必要はありません。小学校に上がる頃までに昼寝の習慣は大半の子で消失し、この年齢では夜間の連続睡眠で必要量をまかなえるようになります。ただし、個々の事情によっては例外もあります。例えば、前夜の就寝が遅く睡眠不足になっている場合や、体調不良で日中に極度の眠気がある場合には、短時間の仮眠が役立つこともあります。しかし、一般には日中に活動することで適度な疲労が溜まり、夜にしっかり眠れるというリズムが確立しています。学校では昼寝の時間は設けられないため、日中眠くならないよう夜間の睡眠を十分とることが肝要です。もし授業中に居眠りしてしまうほど眠気が強い場合、慢性的な睡眠不足が疑われるため家庭での就寝時刻を見直す必要があります。なお、昼寝をする場合でも20〜30分程度の短い仮眠に留め、夕方以降は眠らないようにすることが、夜の入眠に支障を来さないコツです。具体的には40分以上昼寝している場合は親が起こし、夕方4時以降は昼寝しないなどの対応が適切です。

睡眠不足・過剰睡眠の影響

学童期は学習面でも身体面でもめざましく成長する時期であり、睡眠不足の影響が多方面に現れます。十分に眠れていない子どもは注意力や記憶力の低下、問題解決能力の障害が報告されています。カナダで行われた実験では、小学生の睡眠時間を普段より1時間削減しただけで落ち着きのなさや感情のコントロール不良が顕著になったといいます。また、睡眠不足はこの年代の肥満リスクを高めることが数多くの研究で示されています。例えば、5〜6歳児を追跡した研究では、夜の睡眠が短い子は長い子に比べて肥満になる率が約1.5倍高いとの結果が出ています。これは睡眠不足により食欲を増進させるホルモンバランスの乱れや代謝への影響が考えられます。さらに、慢性的な寝不足の児童では高血圧のリスク増大や学童期の学業成績の低下とも関連が報告されています。一方、過剰睡眠については、学童期では通常日中にそれほど長く眠り続けることはないものの、もし必要以上に長時間眠っている場合は睡眠の質が低下していたり(例えば、睡眠時無呼吸症候群による断続的な睡眠で長く寝ても疲れが取れない場合など)、あるいは精神的な不調(うつ傾向など)が隠れている可能性があります。プリンストン大学の縦断研究では、9歳児において睡眠時間が短すぎても長すぎても行動上の問題が多く、健康状態が悪いことが示され、子どもにも最適な睡眠時間の範囲が存在することが確認されています。要するに、学童期の子どもにとって睡眠不足は注意力散漫・学習意欲低下・肥満リスク増加など重大な悪影響を及ぼし、睡眠のとりすぎも通常は問題の兆候となり得るため、適切な範囲内の睡眠時間を保つことが重要です。

小学生(6〜12歳)

  • 必要な睡眠時間: 1日9〜12時間。
  • 睡眠時間帯: 21〜22時までに就寝、朝6〜7時に起床が理想。
  • 昼寝: 不要。ただし短時間の仮眠は例外的に有効。
  • 影響: 睡眠不足は集中力低下・学力低下・生活習慣病リスク上昇につながる。

各年齢段階で共通して言えることは、適切な睡眠習慣(十分な睡眠時間の確保と規則正しい就寝・起床リズム)が子どもの健全な発育・発達に不可欠だという点です。睡眠中には成長ホルモンの分泌や記憶の整理、細胞の修復が行われ、心身の成長を支えます。そのため、慢性的な睡眠不足は身体的成長の遅れ、認知機能の低下、情緒面の不安定、問題行動の増加、生活習慣病リスクの上昇など多岐にわたる悪影響を及ぼします。一方で過剰な睡眠も、子どもの場合は多くありませんが、極端な長時間睡眠は何らかの不調(倦怠感や無気力感など)を示す可能性があります。子どもの年齢に応じた適切な睡眠時間と生活リズムを家庭・学校で支援し、「寝る子は育つ」という言葉通り十分な睡眠をとることが、子どもの健康な発育・学習・生活の土台となります。

次回は、⑤13~15歳頃(中学生)についてまとめていきたいと思います。

参考文献・情報源

国際機関・学会ガイドライン

日本の行政・学会資料

医学論文・研究報告(PubMed収載)

  • Mindell, J. A., et al. (2015). Developmental aspects of sleep hygiene: Findings from the 2014 National Sleep Foundation Sleep in America Poll. Sleep Health, 1(1), 40–47.
    https://doi.org/10.1016/j.sleh.2014.12.002
  • Touchette, E., et al. (2007). Short night-time sleep-duration and hyperactivity trajectories in early childhood. Pediatrics, 120(4), 850–857.
    https://doi.org/10.1542/peds.2006-1874
  • Sadeh, A., et al. (2011). Sleep and the transition to kindergarten: A longitudinal study. Developmental Psychology, 47(2), 378–391.
    https://doi.org/10.1037/a0021804
  • Lo, J. C., et al. (2016). Effects of Partial and Acute Total Sleep Deprivation on Performance across Cognitive Domains, Individuals and Circadian Phases. Sleep, 39(3), 687–698.
    https://doi.org/10.5665/sleep.5552

補足的資料

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この記事を書いた人

Dr.流星 – 現役の精神科医であり、父親として日々子育てに奮闘中。
「科学的根拠に基づいた育児」をテーマに、子どもの心と脳の発達、メンタルケアについて情報を発信しています。現役パパだからわかる子どもの発達に関するリアルな悩みに寄り添いながら、家庭で実践できるヒントも紹介。ガジェット好きでもあり、育児に役立つ家電や子育てグッズを色々と試しています。子育ての悩みを軽減し、家族のメンタルヘルスを良好に保つ…そんな子育てに役立つ知識をお届けしていきます。