子どもの睡眠 ⑤13~15歳頃

こんにちは、Dr.流星です。

さて、前回は小学生についてみていきましたが、小学生までの睡眠リズムと違ってがらりと変わってくるのが、中学生という時期です。

部活動や塾、スマートフォンの使用などで夜更かしが増え、「もっと早く寝た方がいいのはわかってるけど、つい遅くなってしまう……」という声もよく聞きます。
さらに、思春期には生理的に「夜型」になりやすいという特徴もあり、本人の意思だけでは調整しにくい一面も。

今回はそんな中学生の睡眠について、なぜ眠くなるのが遅くなるのか、理想的な睡眠時間や時間帯、日中の眠気や学業・メンタルへの影響などを医学的に解説していきます。

推奨睡眠時間

思春期前半にあたる中学生年代(約13〜15歳)では、1日8〜10時間の睡眠が推奨されます。AASMのコンセンサスでは13〜18歳の青少年は毎日8〜10時間程度の睡眠をとるよう勧告しており、これは米国小児科学会(AAP)も支持しています。厚労省の睡眠指針においても、中学生・高校生年代で概ね8〜10時間の睡眠確保を目標としています。しかし実際には、思春期に入ると様々な要因でこの睡眠時間を確保できないケースが増えます。学校や塾で忙しくなること、スマートフォンやゲームなど夜更かしの誘惑、また思春期に起こる生物学的変化(夜型の傾向の強まり)によって、平均睡眠時間は推奨より短くなりがちです。日本の調査では、中学生の平均睡眠時間は約8時間未満と報告されており、推奨下限ギリギリかそれ以下の子も少なくありません。

理想的な睡眠時間帯

中学生では生活リズムの乱れやすさが課題になります。本来は小学生同様、夜22時頃までに就寝し朝6〜7時に起床する生活が望ましいですが、思春期特有の要因で夜型化しがちです。思春期になるとメラトニン(睡眠ホルモン)の分泌タイミングが遅れるため、生物学的に夜更かし傾向になります。その結果、平日夜に必要なだけ眠れず慢性的な睡眠不足に陥るケースが多くなります。理想的な対策として、米国小児科学会(AAP)などは学校の始業時間を遅らせる提言をしていますが、現状では多くの中学校で早朝から活動が始まるため、生徒自身が早寝に努める必要があります。具体的には、部活や塾などで帰宅が遅くなっても夜更かしは最小限に抑え、決まった時刻に就寝すること、就寝前はスマホやPCの画面を見続けないこと(光源が入眠を妨げるため)、週末に「寝だめ」をしすぎて平日のリズムを崩さないことが挙げられます。朝はできるだけ一定の時間に起きて太陽光を浴び、朝食をとる習慣を維持することで、思春期でも規則正しい睡眠周期を保てます。もし、極端に昼夜逆転し、改善しない場合は精神科の受診も検討してください。時には睡眠薬を用いた是正も必要になります。

昼寝の必要性

中学生にもなると通常は昼寝の習慣はありません。ただし、睡眠不足の補完一時的な疲労回復の手段としての短い仮眠は有用になり得ます。例えば、部活動後の帰宅後や塾に行く前などに、20分ほど目を閉じるパワーナップは集中力を高める効果があります。しかし、夕方以降の仮眠や長すぎる昼寝は夜の睡眠に支障をきたすため避けるべきです。日中強い眠気に襲われる中学生は、前夜の睡眠不足が原因の場合が多いため、基本的には昼寝に頼らず夜間の睡眠を十分とる生活を目指します。どうしても眠い場合に短時間横になること自体は問題ありませんが、その際も30分以上寝込まないよう注意が必要です。学校で居眠りをしないためにも、昼寝が必要ないだけの夜間睡眠(8時間以上)を確保することが理想です。

睡眠不足・過剰睡眠の影響

思春期の睡眠不足は、学業成績の低下や心身の不調と密接に関係しています。十分に眠れていない中学生は、授業中の集中力低下や記憶力の減退が顕著になります。また、睡眠不足は情緒面にも影響し、イライラしやすくなったり、意欲の喪失や落ち込み(抑うつ傾向)を招くことがあります。さらにこの時期は自律神経やホルモンバランスが不安定なため、睡眠不足が続くと頭痛・腹痛など身体症状を訴えるケースもあります。研究によれば、睡眠時間が8時間未満の中高生は、8時間以上眠る同年代に比べて抑うつ症状や自殺念慮のリスクが有意に高いことが報告されています。米国小児科学会(AAP)も「10代の慢性的な睡眠不足はうつ病や自傷行為のリスクを高める」と警告しています。他にも、中高生の睡眠不足は飲酒・喫煙などのリスク行動とも関連するとのデータがあります。一方、過剰睡眠については、思春期の場合週末に過度に寝すぎることでかえって体内時計が乱れ、月曜の朝に調子が出ない「社会的ジェットラグ(時差ぼけ)」を生む可能性があります。また、極端に長時間眠る傾向が続く場合は、うつ病など精神的問題の兆候である可能性もあります。総合的に見て、中学生では睡眠不足が学業・メンタル・身体の健康に深刻な悪影響を及ぼし得るため、8〜10時間の睡眠を確保することが強く望まれます。「寝る子は育つ」は思春期にも当てはまり、十分に眠ることで脳の整理が進み、記憶や感情の安定が図られるのです。

中学生(13〜15歳)

  • 必要な睡眠時間: 1日8〜10時間。
  • 睡眠時間帯: 夜22〜23時就寝、朝6〜7時に起床が理想。夜型傾向に注意。
  • 昼寝: 通常不要。短時間の仮眠は集中力回復に有効。
  • 影響: 睡眠不足は学力・情緒・メンタルヘルスに影響。リスク行動の関連も。

各年齢段階で共通して言えることは、適切な睡眠習慣(十分な睡眠時間の確保と規則正しい就寝・起床リズム)が子どもの健全な発育・発達に不可欠だという点です。睡眠中には成長ホルモンの分泌や記憶の整理、細胞の修復が行われ、心身の成長を支えます。そのため、慢性的な睡眠不足は身体的成長の遅れ、認知機能の低下、情緒面の不安定、問題行動の増加、生活習慣病リスクの上昇など多岐にわたる悪影響を及ぼします。一方で過剰な睡眠も、子どもの場合は多くありませんが、極端な長時間睡眠は何らかの不調(倦怠感や無気力感など)を示す可能性があります。子どもの年齢に応じた適切な睡眠時間と生活リズムを家庭・学校で支援し、「寝る子は育つ」という言葉通り十分な睡眠をとることが、子どもの健康な発育・学習・生活の土台となります。

次回は、いよいよ高校生の時期である16~18歳頃についてまとめていきたいと思います。

参考文献・情報源

国際機関・学会ガイドライン

日本の行政・学会資料

医学論文・研究報告(PubMed収載)

  • Mindell, J. A., et al. (2015). Developmental aspects of sleep hygiene: Findings from the 2014 National Sleep Foundation Sleep in America Poll. Sleep Health, 1(1), 40–47.
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  • Touchette, E., et al. (2007). Short night-time sleep-duration and hyperactivity trajectories in early childhood. Pediatrics, 120(4), 850–857.
    https://doi.org/10.1542/peds.2006-1874
  • Sadeh, A., et al. (2011). Sleep and the transition to kindergarten: A longitudinal study. Developmental Psychology, 47(2), 378–391.
    https://doi.org/10.1037/a0021804
  • Lo, J. C., et al. (2016). Effects of Partial and Acute Total Sleep Deprivation on Performance across Cognitive Domains, Individuals and Circadian Phases. Sleep, 39(3), 687–698.
    https://doi.org/10.5665/sleep.5552

補足的資料

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この記事を書いた人

Dr.流星 – 現役の精神科医であり、父親として日々子育てに奮闘中。
「科学的根拠に基づいた育児」をテーマに、子どもの心と脳の発達、メンタルケアについて情報を発信しています。現役パパだからわかる子どもの発達に関するリアルな悩みに寄り添いながら、家庭で実践できるヒントも紹介。ガジェット好きでもあり、育児に役立つ家電や子育てグッズを色々と試しています。子育ての悩みを軽減し、家族のメンタルヘルスを良好に保つ…そんな子育てに役立つ知識をお届けしていきます。