こんにちは、Dr.流星です。
中学生の頃から夜型の生活リズムが続いている人も多いと思いますが、高校生になるとその傾向はさらに強まりがちです。
授業や部活動、塾や受験勉強、さらにはスマートフォンやSNS、アルバイトなど――やることが増える一方で、睡眠時間が削られてしまう現実があります。
けれど、脳が完成へと向かうこの時期こそ、実は「しっかり眠ること」が心と体の健康を支える鍵になります。
今回は、高校生に必要な睡眠時間や理想的な就寝・起床時間、日中の集中力やメンタルヘルスとの関係について、科学的な視点から詳しく解説していきます。
高校生(16〜18歳)
推奨睡眠時間
高校生年代(16〜18歳)も、中学生と同様に1日8〜10時間の睡眠が推奨されます。米国睡眠医学会(AASM)の勧告では13〜18歳をひとくくりに8〜10時間としていますが、高校生はその上限年齢に当たります。発達段階としては思春期後期〜青年期初期であり、身体の成長は緩やかになってきますが脳の発達(とくに前頭前野の成熟)は継続中であるため、依然十分な睡眠が必要です。しかし、現実には、高校生の平均睡眠時間は更に短く、6〜7時間程度しか眠れていない生徒も多いのが問題視されています。受験勉強や部活、スマホやSNSなどで就寝時間が遅くなり、朝は通学のため早起きを強いられるためです。厚労省も「中・高生は8〜10時間を参考に睡眠時間を確保することを推奨」としつつ、我が国の高校生の睡眠不足傾向に警鐘を鳴らしています。この時期の睡眠習慣が大学生、あるいは社会人になった後にも影響すると言われており、非常に重要な意味をもちます。
理想的な睡眠時間帯
高校生にとって理想的な睡眠時間帯は、夜23時前後までに就寝し、朝6〜7時に起床するパターンですが、現実的なハードルが高い場合もあります。思春期後期になると若干睡眠相が前倒しに戻る傾向もありますが、それでも多くの高校生は塾や宿題、あるいはスマホやゲームで深夜まで起きているケースが見られます。理想論としては、高校生でも22〜23時には就寝し、朝は余裕をもって起きられる生活が望ましいです。十分な睡眠が学習効率を上げることは科学的にも示されています。例えば、米国の調査では、成績優秀な高校生ほど平日の平均就寝時刻が早く、睡眠時間が長い傾向があったという報告もあります。そのため、受験勉強で忙しいときこそ睡眠時間を削らない時間管理が重要です。また、高校生になるとアルバイトなどで夜遅くまで活動する場合もありますが、シフトの入れすぎによる慢性睡眠不足には注意が必要です。学校が始まる早朝に向けて逆算して就寝時間を設定し、難しい場合は昼休みに10分程度の仮眠をとるなど工夫して対応します。休日は平日より長く眠りがちですが、朝寝坊は2時間程度の延長に留めることで月曜朝のリズムを維持できます。理想的には、高校生自身が睡眠の大切さを理解し、勉強や遊びとのバランスをとってセルフマネジメントすることが求められます。
昼寝の必要性
高校生も基本的には昼寝は必要ありません。しかし、慢性的な睡眠不足を抱える生徒が授業中に居眠りしてしまうような場合、短い昼寝で補うことも検討されます。例えば、昼休みや放課後の10〜20分の仮眠は、注意力をリフレッシュする効果があります。ただし、夕方以降の仮眠や、長時間の昼寝は夜の睡眠を妨げるので避けるべきです。高校生の場合、日中の強い眠気そのものが睡眠不足のサインであり、本来は昼寝がなくても過ごせるはずの年代です。したがって、昼寝に頼るのは根本的な解決ではなく、夜間の睡眠時間を増やすことが先決です。どうしても午後の授業で耐えられないほど眠い場合にのみ、授業間の休憩などで数分程度目をつぶって休む程度にとどめ、本格的な睡眠には入らないようにします。総じて、高校生では昼寝は常態化させず、夜まとめて眠る習慣を維持することが大切です。
睡眠不足・過剰睡眠の影響
高校生の睡眠不足は、中学生以上に深刻な影響を及ぼす場合があります。睡眠不足が蓄積すると注意力・判断力の低下により自動車事故のリスクが高まる(この年齢帯は自動車、バイクの運転免許を取得し始める年齢でもあります)ほか、反社会的行動の可能性も指摘されています。また、高校生は受験や人間関係のストレスも抱えやすく、睡眠不足はそれらストレスへの対処能力を低下させます。慢性的に睡眠が足りない高校生は、抑うつ症状や不安障害の発症率が高まるとの研究もあります。加えて、睡眠不足は免疫力の低下を招き、風邪など体調不良になりやすくなることが知られています。過激な例では、米国の報告で5時間未満の睡眠の高校生は自殺を試みた率が顕著に高かったというデータもあり、高校生年代に十分な睡眠を確保することは命の安全にも関わると強調されています。過剰睡眠については、高校生では休日に12時間以上寝だめするケースが見られますが、これ自体が直接有害というよりは平日の睡眠不足の裏返しである場合がほとんどです。ただし、必要以上に眠りすぎる生活が続くと昼夜逆転や生活リズムの乱れにつながり、かえって疲労感が抜けなくなることがあります。また、極端に長く寝てもすっきりしない場合は睡眠時無呼吸症候群など睡眠の質の問題や、うつ状態による過眠などを疑う必要があります。結論として、高校生では睡眠不足が精神的健康・安全面で深刻なリスクを伴うため8〜10時間の睡眠を確保することが最重要であり、併せて週末の寝すぎによるリズム崩壊にも注意しつつ安定した睡眠習慣を維持することが望まれます。実際、精神科の臨床場面でも、高校生の睡眠にまつわる受診は少なくありません。
高校生(16〜18歳)
- 必要な睡眠時間: 1日8〜10時間。実際には不足傾向。
- 睡眠時間帯: 夜23時前後に就寝、朝6〜7時に起床が理想。
- 昼寝: 基本不要。必要なら短時間(20分以内)に限定。
- 影響: 睡眠不足は抑うつ・自殺念慮・事故・学力低下・免疫低下の原因となり得る。
共通事項
各年齢段階で共通して言えることは、適切な睡眠習慣(十分な睡眠時間の確保と規則正しい就寝・起床リズム)が子どもの健全な発育・発達に不可欠だという点です。睡眠中には成長ホルモンの分泌や記憶の整理、細胞の修復が行われ、心身の成長を支えます。そのため、慢性的な睡眠不足は身体的成長の遅れ、認知機能の低下、情緒面の不安定、問題行動の増加、生活習慣病リスクの上昇など多岐にわたる悪影響を及ぼします。一方で過剰な睡眠も、子どもの場合は多くありませんが、極端な長時間睡眠は何らかの不調(倦怠感や無気力感など)を示す可能性があります。子どもの年齢に応じた適切な睡眠時間と生活リズムを家庭・学校で支援し、「寝る子は育つ」という言葉通り十分な睡眠をとることが、子どもの健康な発育・学習・生活の土台となります。
次回は、本シリーズのまとめ記事を作成しておきたいと思います。
参考文献・情報源
国際機関・学会ガイドライン
- American Academy of Sleep Medicine (AASM). (2016). Consensus Statement: Recommended Amount of Sleep for Pediatric Populations. [Journal of Clinical Sleep Medicine, 12(6):785–786].
https://jcsm.aasm.org/doi/10.5664/jcsm.5866 - American Academy of Pediatrics (AAP). (2014). School Start Times for Adolescents. Pediatrics, 134(3):642–649.
https://doi.org/10.1542/peds.2014-1697 - World Health Organization (WHO). (2019). Guidelines on Physical Activity, Sedentary Behaviour and Sleep for Children under 5 years of age.
https://www.who.int/publications/i/item/9789241550536
日本の行政・学会資料
- 厚生労働省. (2023). 「健康づくりのための睡眠指針 2023(子ども編)」
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_32777.html - 文部科学省. (2022). 「子供の生活習慣と学習意欲に関する調査結果」
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/seitoshidou/1422155_00001.htm - 日本小児保健協会. (2016). 「子どもの睡眠と健康~小児科医がすすめる睡眠の知恵~」
https://www.jschild.or.jp/modules/publication/index.php?content_id=14
医学論文・研究報告(PubMed収載)
- Mindell, J. A., et al. (2015). Developmental aspects of sleep hygiene: Findings from the 2014 National Sleep Foundation Sleep in America Poll. Sleep Health, 1(1), 40–47.
https://doi.org/10.1016/j.sleh.2014.12.002 - Touchette, E., et al. (2007). Short night-time sleep-duration and hyperactivity trajectories in early childhood. Pediatrics, 120(4), 850–857.
https://doi.org/10.1542/peds.2006-1874 - Sadeh, A., et al. (2011). Sleep and the transition to kindergarten: A longitudinal study. Developmental Psychology, 47(2), 378–391.
https://doi.org/10.1037/a0021804 - Lo, J. C., et al. (2016). Effects of Partial and Acute Total Sleep Deprivation on Performance across Cognitive Domains, Individuals and Circadian Phases. Sleep, 39(3), 687–698.
https://doi.org/10.5665/sleep.5552
補足的資料
- National Sleep Foundation (NSF). (2015). Sleep Duration Recommendations: Methodology and Results Summary.
https://www.sleepfoundation.org/professionals/sleep-duration - National Institutes of Health (NIH). (2011). Your Guide to Healthy Sleep.
https://www.nhlbi.nih.gov/files/docs/public/sleep/healthy_sleep.pdf