こんにちは、Dr.流星です。
①と②でイヤイヤ期についてはもう十分理解できたかもしれません。
しかし、イヤイヤ期は1歳半頃~5歳頃まで幅広く現れる可能性があります。そうなると、1歳半の子どもと4歳頃の子どもとでは脳の機能も、行動力も、言語力も違います。もしかすると兄弟に手がかかる時期と重なるかもしれません。
そんな年齢ごとに少し異なった対応が必要なイヤイヤ期について、それぞれの年齢に合わせた考え方、対応の仕方を紹介していきます。
もちろん、これらが全てではありませんが、お子さんの特性に合わせて活用してみてくださいね。
<最初に>親は冷静に、感情のコントロール役に徹する
子どもが激しく癇癪を起こしているとき、親まで感情的になっては悪循環です。「ダメって言ってるでしょ!」「静かにしなさい!」と”まず怒鳴る”などは最悪です。叩くなどは禁忌です。親が子供にとって怖い存在、頼れない場所となってはいけません。むしろ親が子どもの未熟な感情を受け止めて調整する「安全・安心の場所」になるつもりで対応しましょう。怒りや焦りを感じたら、まずは意識的にゆっくり呼吸して、落ち着いた声で短く言葉がけします。「大丈夫だよ」「ママ(パパ)がいるよ」と繰り返すだけでも構いません。子どもは親の声色や表情から安心感を得ます。加えて、優しく抱き締めたり、抱っこしたり、手を握ったり、横に座ったりと距離を近くします。子供にとって親との距離が心の距離にも直結しており、安心を生み、不安を軽減します。感情的に怒鳴ったり叩いたりしたくなっても(暴言・暴力はデメリットしかないので親のアンガーマネジメントに取り組みましょう)、一度その場で深呼吸し、それでも難しければ子どもが安全な場所にいるのを確認してお互いに落ち着くため数分距離を置くのも手です。まずは親が落ち着く、それから子供を落ち着かせる。そして、遠くから怒鳴るのではなく、近い距離を保って優しく声掛けをします。
まずは全年齢において上記のことは共通していますので、是非実践してみてください。
1歳半~2歳ごろ: イヤイヤ期の始まり
この頃は理解力が少しずつ発達し、「ちょうだい」「おいで」など簡単な指示が分かるようになります。一方で言葉の表現力は未熟で、自分の気持ちをうまく伝えられないため、欲求不満になると泣き叫んだり叩いたりといった癇癪を起こしやすくなります。1歳半を過ぎると自我が芽生え始め、親に何か言われてもとりあえず「イヤ」と頭を振るなど簡単な拒否反応を示すことが増えてきます。この時期には約9割の子どもが癇癪持ちであるとの報告もあり、多少のイヤイヤや癇癪はごく普通の発達現象です。
適切な対応
1~2歳代前半の子どもには、まず安全確保と環境設定が重要です。興味旺盛でなんでも触ったり口に入れたりする時期なので、危ない物や触ってほしくない物は手の届かない所に片付け、できるだけ「ダメ!」と叱らなくて済む環境作りをしましょう。例えば、テレビや家電の周囲には簡易な柵を置く、コンロには安全カバーを付け、誤飲しそうな小物は床に置かない工夫です。環境整備により、親も余裕を持って見守ることができます。
次に、基本的欲求(空腹・睡眠など)の管理も心掛けてください。空腹や疲労は癇癪を誘発しやすいので、食事・お昼寝・就寝のリズムを整えましょう。外出前に軽食をとらせたり、お昼寝の時間帯はズラさず、長時間のお出かけでは途中で休憩を入れるなど、一定のペースを維持することが大切です。
癇癪が始まりそうなときは注意転換(ディストラクション)が有効です。「あっ、ワンワンがいるよ!」「ここに可愛いオモチャがあるね!」と別の興味に誘ったり、急に歌をうたって気を逸らすなど、泣き出す前に気持ちを逸らす工夫をしてみましょう。また、何かを中断させたいときには事前に声かけをする習慣を持ってください。例えば、遊びをやめて帰宅する前には「お人形さんがねんねしたらお片付けしようね」「これで最後にしようか」と予告すると、突然切り上げるより抵抗が少なくなります。
それでも癇癪を起こしてしまった場合、親は落ち着いた態度で対処します。大声で叱りつけたり叩いたりするのは逆効果で、子どもの不安や怒りを増幅させてしまいます。安全が保たれている範囲では、少し見守りつつ無視(スルー)するのも一つの方法です。アメリカCDC(疾病予防管理センター)も「この年齢の癇癪は無視しても大丈夫。落ち着く時間を与えましょう」と助言しています。子どもが地面で手足をばたつかせて泣き叫んでいる間、親はそばで見守りつつ静かに待ちます。泣き止んできたら、「よく落ち着けたね」「偉いね」と抱きしめて安心させてあげてください。抱き締めることに抵抗がある方は背中をさするなど、スキンシップを交えて声掛けしてあげてください。1~2歳児は言葉で気持ちを聞いても答えられないので、言い聞かせよりスキンシップで安心させる方が有効な場合が多いでしょう。ただし、子どもが怒りで興奮して抱っこを嫌がる場合は無理に抱かず、少し距離を置いて「ここにいるよ」「大丈夫だからね」と見守る方がお互い落ち着けます。
2歳~3歳: 自我の主張が最高潮に
2歳代になると, 「魔の2歳児」という言葉が示すように反抗期の真っ只中に入ります。語彙が増え始め、「ママ来て」「これやだ」など簡単な表現はできるようになりますが、情緒のコントロールはまだ未熟です。親の提案に対し反射的に「イヤ!」と言うことが非常に多くなり、親を困惑させます。興味深いことに、子どもは「イヤ!」と言いつつも本当はやりたがっている様子を見せることもあり、「イヤ」と言うこと自体が自己主張の一環なのです。この時期の子どもは「自分でしたい!」という気持ちが非常に強く、身の回りのことを自分でしたがります。しかし、発達途上のため思い通りにできないことも多く、「自分でやりたいのにできない」葛藤が癇癪を引き起こす一因になります。例えば、コップを自分で持ちたいのにうまく飲めずこぼしてしまうと激しく怒ったり、着替えを手伝おうとすると「自分でやる!」「私が選ぶ!」と拒否して裸のまま逃げ回る、といった行動が典型的です。また想像力が芽生えはじめ、イヤイヤの最中に思いがけない言動をすることもあります(お気に入りでない服に対し「痛いから着たくない!」など理由をこじつけて拒否する場合もあります)。この時期の癇癪の頻度はピークで、ある研究では2歳児の約20%がほぼ毎日1回以上の癇癪を起こすと報告されています。しかしこれは発達的に正常な範囲であり、年齢とともに徐々に落ち着いていくものです。
適切な対応
2~3歳児には、子どもの自立心を尊重しつつ親が上手に主導権をとる対応が求められます。ポイントの一つが「選択肢を与える」ことです。何でも頭ごなしに「ダメ」「~しなさい」では子どもも反発します。代わりに大人が許容できる範囲で選択肢を用意し、「コップで飲む?ストローで飲む?」「お花にする?うさぎさんにする?」のように子ども自身が選べる形にすると協力的になりやすいです。このようにYesかNoかの二者択一ではなく、「AにするかBにするか?」といった問いかけに変えると、子どもは自分の意思で動いたと感じられ、結果的に親の望む行動をとりやすくなります。
また、できることは本人にやらせてみる姿勢も大切です。時間や安全に余裕があるときは多少非効率でも見守り、子どもが「自分でできた!」という達成感を味わえる機会を作りましょう。例えば、服を畳む、コップをテーブルまで運ぶ、おもちゃを片付ける等、簡単なお手伝いでも構いません。恐らくうまくできることは少ないでしょう。しかしながら、できたときは具体的に褒めることも忘れずに。「ちゃんとお片付けできたね、すごいね!」「自分でくっく(靴)履けたね!」といったポジティブな声かけは、子どもの自己肯定感を育み、良い行動の再現につながります。AAP(米国小児科学会)も「良い行動を見つけて褒めること」を第一のアドバイスに挙げています。一方、危険行動や他者への攻撃(人を叩く・噛みつく・物を投げつける等)については毅然と禁止する姿勢を示しましょう。「叩いちゃダメだよ」「投げないでね」と短くはっきり伝え、必要ならその場から引き離します。そうした後に、「お友達は叩かれて痛い痛いだったんじゃないかな?」「お人形さんは投げられて悲しいって思ってるんじゃないかな」となぜその行動をしてはいけなかったかを言語化して説明します。説明を理解できていなくてもいいです。言葉は繰り返しておくことで今は理解できなくともその後の言語力に必ず繋がっています。毅然とした態度で攻撃的な行動は決して許されないことを一貫して繰り返し教えることが重要です。
癇癪への対応としては、基本は1~2歳児の場合と同様、落ち着いて見守ることです。子どもがひとしきり感情を爆発させるのを待ち、危険がなければ静かに見届けます。この際、要求を通すための駄々であれば、突き通さない(要求を呑まない)一貫性も重要です。例えば、「お菓子は一つだけ」と日頃から約束していたのに、癇癪を起こされたからといって二つ目を与えてしまうと、泣けば親が折れると学習してしまいます。約束やルールは曲げず、「◯◯したかったんだね、でもこれはいつも約束してるよね」と子どもの気持ちを受け止めつつも要求には応じないようにしましょう。親の一貫性は、この時期の子どもに安心感(世の中のルールは安定しているという感覚)を与え、長期的には癇癪の頻度を減らすことにつながります。
場合によっては、タイムアウト(時間を区切った一時退出)の方法を取り入れることも検討できます。「落ち着くための場所」を家の中に作っておき(クッションやぬいぐるみを置いた隅のスペースなど、安全が確保できる場所)、子どもが興奮して手が付けられない時に「ここで落ち着くまでゆっくりしようか」と連れて行く方法です。その際も子どもの傍を離れず安全を見守り、「落ち着いたら抱っこしようか」と本人が安心できることを伝えてあげてください。AAP(米国小児科学会)はタイムアウトの目安時間を「年齢×1分」と提唱しており、2歳なら2分程度が適当です。ただし、タイムアウトは使いすぎると効果が薄れるとも言われており、この時期の子どもには理解が難しいこともあるため、本当に危険な行動を止めたい場合など限定的に用いるのが望ましいでしょう。
言葉かけの工夫
2~3歳児は徐々に会話が成立し始める時期です。癇癪の最中に理詰めで説得するのは難しいですが、日常的に子どもの気持ちを言葉にする練習をすると情緒発達に役立ちます。例えば、子どもが怒って物を投げたとき、落ち着いた後で「○○ができなくて悔しかったんだね。嫌だったね」と代弁してあげます。そうすることで自分の感情と言葉とが結びつき、徐々に気持ちを言葉で表現できるようになります。実際、感情を言語化するスキルが身につくと癇癪の頻度は減ることが研究から知られています。絵本の読み聞かせや歌遊びも語彙を増やし情緒を豊かにするのに有効です。現代ではアニメや動画もありますが、適しているものと適していないものの差が大きく、一概に推奨はできません。(おすすめのアニメや動画についてはまたいつか)
なお、言葉の発達には個人差が大きく、言葉が遅めの子ほど癇癪が激しくなりやすいとする研究結果もあります。2000人規模の調査では、話せる単語が少ない幼児は語彙が平均的な子に比べて2倍近く激しい癇癪を起こしやすいと報告されています。言葉で表現できない分、癇癪という形でフラストレーションを示してしまうためです。どうしたら子供の語彙力を増やすことができるのかについては、別の記事で書きたいなと思っています。もし、2歳を過ぎても指差しや身振りでの意思表示も乏しく、癇癪ばかりが目立つような場合は、言語聴覚士(聴覚異常の可能性)や発達専門医(知的障害や発達障害の可能性)に相談してみてもよいでしょう。早めに言葉の遅れに対応することで、癇癪の悪化を防ぎ発達を支援できる可能性があります。
親のストレスケア
この時期は一日中「イヤ!」を連発され、親もストレスフルです。思わず感情的に怒鳴ってしまうこともあるかもしれません。しかし、冒頭にも述べた通り、叩く・怒鳴るなどの体罰的対応はデメリットしかないため、そうなる前に一呼吸おく工夫をしましょう。一旦目を閉じてゆっくり深呼吸し、心拍数が落ち着くのを感じてください。それでも辛いときは、安全を確認した上で数分その場を離れるのも有効です。例えば、「ママもちょっと向こうで深呼吸してくるね。ここで待っててね。一緒に落ち着こうね」と伝え、子どもが安全に泣いていられる環境なら短時間離れて気持ちを落ち着けます。家族に交代してもらえるなら、お願いしましょう。もし、奥さんや旦那さん、パートナーがそういった状況にあるときは「私が見てるから、ちょっと離れて落ち着いてきて」と自分から交代して、一旦落ち着くように伝えましょう。周囲の協力を仰ぎ、決して一人で抱え込まないでください。行政や支援団体など、必ず相談できる相手がいます。
3歳~4歳: 言葉と理解が発達する時期
3歳頃になると, 子どもの語彙や会話力が飛躍的に発達します。簡単な理由説明や、自分の希望を文章で伝えることもできるようになり、癇癪以外の手段で欲求不満を表現できるようになります。その結果、激しい癇癪の頻度は徐々に減っていき、3歳代後半~4歳頃には毎日癇癪を起こす子は一部(約10%)に過ぎなくなります。実際、多くの子どもは4歳を過ぎると気持ちの切り替えがスムーズになり、イヤイヤ期は峠を越えます。一方で、この時期は「なんで?どうして?」と質問攻めにするほど好奇心が旺盛になるのも特徴です。論理的思考はまだ未熟ですが、物事の理由を知りたがり、大人の説明に対して「でも○○でしょ?」「前はいいって言ってた!」と食い下がる場面も出てきます。また他者の心情を理解する力(共感力)が育ち始め、特に4歳頃になると「ママ悲しそう…」といった発言をする子も増えてきます。これは発達的に重要な進歩で、徐々に自己中心的な視点から脱却しつつあるサインです。ただし、まだ完全ではなく、友達とおもちゃの取り合いをして相手を泣かせてしまうことも珍しくありません。この年代の子どもは、基本的には落ち着いている時は理屈が分かるようになってきますが、疲れや空腹、環境の変化などで再び癇癪を起こすこともあるため、引き続き注意が必要です。
適切な対応
3~4歳児には、言葉かけによる理解促進とルール・マナーの学習が主なテーマになります。子どもが「なぜ○○しなきゃいけないの?」と聞いてきたら、なるべく簡潔に理由を説明しましょう。「△△ちゃんがお友だちに叩かれたら痛いし、悲しいよね?だからお友達は叩いたらダメだよ」のように短く具体的に伝えます。長々と説教する必要はありません。3歳代ではまだ抽象的・長時間のお説教(説諭)は理解できず、途中で意地になって聞かなくなることもあります。子どもの理解レベルに合った説明を心がけ、「〇〇だから駄目なの。次からこうしようね」と結論から伝えると良いでしょう。また、この時期は「ルール」を教え始める時期でもありますが、頭ごなしに「これは絶対ダメ!」と厳しくしすぎると委縮したり反発したりします。ルールを教える際には、守ると良いことがあると示す前向きなアプローチが効果的です。例えば、「おもちゃをお友だちと仲良く使えたら、一緒にもっと楽しく遊べるね」と伝えることで、ルールを嫌な禁止事項ではなくポジティブな約束事として捉えさせます。
3~4歳になると、家庭生活だけでなく幼稚園・保育園など集団生活の中で社会性を学ぶ機会も増えてきます。他児とのトラブルも経験しながら「優しく貸してと言えば貸してもらえる」「大きい声を出すとお友達が泣いちゃう」など徐々に学んでいきます。ただ家庭ではまだまだ親のサポートが必要です。友達と喧嘩して癇癪になった場合などは、落ち着いた後で一緒に経緯を振り返り、「◯◯ちゃんも使いたかったんだね」「順番待つのが嫌だったんだね」と気持ちを言葉にしつつ、「次は貸してって一緒に言ってみようか」「順番を待ってる間はこっちで遊ぼうか」と問題解決の練習をします。これは発達心理学でいう自発性(イニシアティブ)を育てる訓練にもなります。親が解決策を押し付けるのではなく子どもと一緒に考える姿勢を示すことで、子どもは自分から行動を起こす力を身につけていきます。
癇癪への対応については、3~4歳児でも基本は平静さと一貫性が鍵ですが、低年齢時より前後の声かけや事後指導に力を入れます。例えば3歳の子が店で「おもちゃ買って!」と泣き出した場合、まずは落ち着かせるため店外に出るなど刺激を減らし、安全を確保します。その上で、「見たら欲しくなったんだね。でも今日は買わない約束でしょう?」と約束を確認し、泣き止んだら「よく我慢できたね」と認めてあげます。泣いても絶対に買ってもらえないと理解させつつ、我慢できたことを褒めるのです。このように、癇癪前後でメリハリのある対応を心がけてください。なお4歳近くになるとタイムアウトも理解しやすくなるため、例えば他の子を叩いてしまった場合など明確なルール違反時には3~4分程度のタイムアウトを科し、「◯◯したからタイムアウト(「反省」など別の呼び名でもいいです)だよ。終わったら謝ろうね」と事前事後に簡単に説明する方法も取れます。タイムアウト後には必ず理由を再確認し、できれば子ども自身に謝る・片付ける等の行動を取らせて完了とします。ただし、感情的な癇癪そのものにタイムアウトを多用するのは避け、あくまで明らかなルール違反や攻撃行動へのペナルティとして限定する方が良いでしょう。
4歳頃になると、親もつい「もう大きいんだからしっかりして」と期待しがちですが、まだ幼児であることを忘れないでください。大人びた口調で話せても感情コントロールは未熟です。遊びの区切りで癇癪になることもあります。この年齢でも基本は子どもの感情に寄り添う姿勢が大切です。癇癪がおさまった後で、「◯◯したかったのにママに止められて悲しかったね。でも飛び出すと車が来て危ないから止めたんだよ」と、感情を受け止めつつ理由を簡潔に伝えます。子どもが落ち着いた段階であれば、こうした説明はしっかり頭に入ります。そして最後に「危ないことをしなかったから怪我しなかったね。次からも気を付けようね」と、ポジティブに締めくくる声かけを心がけましょう。これは「いけないことをしなかった」という成功体験を言語化する作業であり、子どもの自制心と理解を促します。
この時期になると、親の言葉遣いや態度も子どもに移りやすくなります。親がかっとなって怒鳴ったり乱暴な言葉を使ったりすると、子どもも真似をして問題行動が悪化しかねません。また、幼稚園でそんな態度や言葉遣いが出たら友達とトラブルになるうえ、「ママ(パパ)がいつもそうするから」と恥ずかしい思いをするのは親自身です。どんな場面でも親が手本であることを意識し、冷静で優しい語りかけを心がけてください。難しいときは深呼吸や時間をおくテクニックを活用しましょう。
4~5歳を過ぎても激しいイヤイヤ行動が続く場合
一般的に5歳以上で毎日のように癇癪を起こしたり、1回の癇癪が20~30分以上続くような場合は典型的なイヤイヤ期の範囲を超えている可能性があります。また、言葉の遅れ以外にも、知的障害、発達障害(自閉スペクトラム症やADHDなど)、不安症傾向が強い子どもは癇癪が激しく長引くことがあります。もし4~5歳を過ぎても手がつけられないほどの癇癪が頻発する、他の発達面でも気になる点がある、といった場合には小児科医や児童精神科医に相談し、必要なら専門的な発達支援や親子療法(例えば、PCIT:親子相互交流療法など)を受けることを検討してください。早期に適切な介入を行うことで、子どもの発達をスムーズに軌道に乗せられる可能性があります。
■ 1歳半~2歳ごろ
・自我が芽生え始めるが、言葉で表現できず癇癪が多い。
・「ダメ!」を減らすための環境設定が効果的。
・注意転換(ディストラクション)や事前の声かけで癇癪を予防。
■ 2歳~3歳ごろ
・自分でやりたい気持ちが強くなるが、うまくできず葛藤しやすい。
・選択肢を与えることで納得しやすくなる。
・攻撃的な行動には毅然と対応しつつ、言葉で理由を伝える練習を。
■ 3歳~4歳ごろ
・落ち着いた後の振り返りが自己理解と自制心を育てる。
・会話力が伸び、気持ちの言語化とルール理解が進む。
・「どうして?」への質問に簡潔に答える姿勢が信頼感につながる。
いかがでしたか?
3回にわたってお届けしてきた「イヤイヤ期」シリーズ、少しずつ理解が深まってきたでしょうか。
内容が盛りだくさんだったため、「一度読んだだけでは覚えきれない…」と感じた方もいるかもしれません。それでも大丈夫です。すべてを完璧に実践する必要はありません。お子さんやご家庭のペースに合わせて、できそうなことから少しずつ取り入れてみてください。
これまでの①・②の記事では、「イヤイヤ期とは何か」「なぜ起こるのか」といった基本的な背景や、日常生活の中で活かせる対応の工夫について紹介しています。今回の③では、年齢ごとに応じた関わり方を詳しくお伝えしました。
ぜひ、①・②も振り返りながら、ご家庭の子育てに役立てていただけたら嬉しいです。
参考文献・情報源
- 米国小児科学会(AAP).
“Guidance for Effective Discipline.” American Academy of Pediatrics, 2018. - Centers for Disease Control and Prevention (CDC).
“Temper Tantrums – Essentials for Parenting Toddlers and Preschoolers.”
https://www.cdc.gov/parents/essentials/behavior/tantrums.html - 厚生労働省 子ども家庭局母子保健課.
「乳幼児身体発育調査結果報告(2020年度)」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/73-22.html - StatPearls Publishing – Pediatric Temper Tantrums
Mackie, T.I. & Zima, B.T. (2022). “Temper Tantrums.” StatPearls [Internet], National Library of Medicine. - American Academy of Child and Adolescent Psychiatry (AACAP).
“Discipline: Managing Your Child’s Behavior.”
https://www.aacap.org - Zero to Three(米国非営利研究機関).
“Your Toddler’s Behavior: What’s Normal?”
https://www.zerotothree.org - Erikson, E.H. (1950).
Childhood and Society. W. W. Norton & Company. - 菅原ますみ 他. (2012).
「育てにくさを感じる乳幼児の保護者支援の実践的検討」日本小児保健協会雑誌, 71(3): 290–296. - 中野良吾 他. (2015).
「保育園児の癇癪の頻度と関連要因に関する疫学的研究」小児心理学研究, 17(1): 45–54. - Parent-Child Interaction Therapy (PCIT) International
https://www.pcit.org