こんにちは、Dr.流星です。
前回、イヤイヤ期の背景(子供たちの発達段階として何が起こっているのか)を解説しました。
「何となくイヤイヤ期について分かったけど、じゃあ、日頃の対応や実際に癇癪を起こしたときはどうしたらいいの!?」と思いますよね。今回の②と次回の③ではそんな疑問に実際の対応や声掛けを交えてお伝えしていきます。
「これ全部気にかけていないといけないの?」と思う量かもしれないですが、全部を気にかける必要はありません。しかしながら、私も実際の子育てでは気にかけられるポイントは全て考えながら子供に接していました。そうした対応を続けているうちに、自分なりの接し方やその子に合った対応が見つかっていくものだと思います。
こうした記事が、みなさんの子育てに少しでも役立てば幸いです。
早速、イヤイヤ期の子どもに向き合う上で重要なポイントをまとめていきます。
親が押さえておきたい、イヤイヤ期の対応ポイントまとめ
発達の視点を持つ
イヤイヤ期の反抗や癇癪は成長の証であり、決して親を困らせるための意地悪ではないことを理解しましょう。「この行動には発達上の意味がある」と理解し、「なんで泣くの」「うるさい!」などと過度に思い詰めないようにしましょう。子ども自身も自我の芽生えによる葛藤で戸惑っている最中です。親が敵対的にならず受容的な姿勢でいることが、子どもの安心につながります。
安全第一の環境作り
子どもの行動を制限しすぎず見守るには、安全な生活環境が不可欠です。家具の転倒防止や危険物の除去など事故予防策を講じた上で、多少のいたずらは大目に見ましょう。テレビを壊す、お皿を割るといったことは環境の調整で防げますし、対策せずに発生した事故は親の責任です。「ダメ!」と叱る回数が減れば、親子双方のストレスも減少します。また外出先でも、人混みや道路など危険な場所では子どもから目を離さず、必要なら手をつないで、抱っこして安全を確保してください。癇癪で走り出したりした場合は即座に身体を押さえて安全を守ることが最優先です。
基本的ニーズを満たす
空腹・眠気・体調不良は大人でも不機嫌になるものです。子どもなら尚更で、そうした状態では癇癪を起こしやすくなります。規則正しい生活リズムを維持し、十分な睡眠と栄養をとらせるよう心がけましょう。長時間の外出や刺激の多いイベントのあとは子どもが疲れているかもしれません。早めに切り上げて休息させる、静かな時間を作るなど配慮してください。
ルールと一貫性
子どもの安全や社会性に関わる事柄(道路で手をつなぐ、人を叩かない等)については、家庭内ルールを明確にし、「一貫して守らせる」ことが大切です。人や時によって態度が変わると子どもは混乱し、余計に反抗したり不安定になります。子供は分からないだろうと「昨日はおもちゃ買ってくれたのに今日はダメ」は通用しません。親同士や家族間でも方針を話し合い、対応にブレがないようにしましょう。その一方で、命に関わらない細かいこと(服のコーディネートや遊び散らかしなど)は多少大目に見て「そこは自分の意には反するけど……仕方ないか」と考える柔軟さも必要です。絶対に守ることと余裕を持って許すことのメリハリが、イヤイヤ期を乗り切る上で親が覚えておくべきコツです。
子どもに選択と決定の機会を与える
イヤイヤ期の子どもは、とにかく自分の意思を通したがります。そのエネルギーを受け止めつつ躾をするコツは、親が最終的なゴールを見据えた上で子どもに“小さな決定権”を渡すことです。毎日の服装やおやつの選択など、安全に問題なく親も許容できる範囲で「〇〇と△△どっちがいい?」と選ばせてみましょう。その選択肢は親が決定してもいいです。自分で選んだことには子どもも納得しやすく、結果的に親の意図する方向に誘導できます。また可能な範囲で「自分でやり遂げる」経験を積ませましょう。日頃から時間が許すときは支度や片付けを急かさず見守り、できたときは「自分でできたね!」「◇◇が上手だね!」と存分に褒めてあげてください。こうした成功体験の積み重ねが、子どもの自己肯定感と情緒の安定に繋がります。
良い行動は積極的に褒め、悪い行動は必要以上に注目しない
子どもは注目を集めるために行動する面があります。癇癪を起こすときも、周囲の反応が大きいほど学習して繰り返す恐れがあります。望ましくない行動に対しては毅然と対応しつつも大騒ぎせず、逆に普段の生活で子どもの良い行いに注目して称賛する時間を増やしましょう。たとえば静かに遊んでいるときや、嫌がらず歯磨きできたときなどに「できたね!」「偉いね!」と声をかけます。親の関心を得る手段がポジティブな行動であると子どもが理解すれば、癇癪に頼らずとも要求を表現できるようになります。
言葉と感情を結びつける教育(言語化)
癇癪が収まった後や日常の中で、子どもの感じている気持ちを代弁し、言葉で表現する手助けをしましょう。「◯◯が嫌だったんだね」「△△して欲しかったんだね」と言ってもらうことで、子どもは自分の気持ちに名前を与えられたことになります。こうした経験の積み重ねにより、徐々に「悲しい」「悔しい」というのはこの気持ちのことか、と自分の感情を言葉で伝えられるようになります。実際、言語表現力の向上に伴って癇癪は減っていく傾向があります。絵本の読み聞かせやごっこ遊びを通じて、色々な感情と言葉を教えるのも効果的です。擬人化と言ってもいいかもしれません。例えば、お人形遊びの中で「この子はおやつがもらえなくて悲しいって泣いてるよ。どうしようか?」と問いかけ、解決策を一緒に考えることで情緒教育につなげられます。これが幼い頃からできているとイヤイヤ期らしいイヤイヤ期が来ないか、来ても短い期間、軽い癇癪で済むことでしょう。もちろん、子供の能力にもよるため、無理強いは禁物です。
体罰や暴言は厳禁
私自身は手が出る、暴言を吐くということは全くありませんが、そうなってしまうほど追い詰められている親御さんもいるかもしれません。体罰は問題行動を悪化させるだけだと多くの研究が示しています。叩かれたり怒鳴られたりした子どもは、親の真似をして同じように叩く・怒鳴るを学習してしまいます。日本でも2019年の法改正で家庭内での体罰は禁止され、「しつけ」と称した体罰は百害あって一利なしという認識が広まっています。怒りにまかせて子どもを傷つけてしまいそうなときは、先述した深呼吸や一時退出の方法を思い出してください。どうしても感情を抑えられない場合は、周囲の人に子どもをバトンタッチしてその場を離れましょう。「叩かない・怒鳴らない」が鉄則です。代わりに、悪い行動に対してはタイムアウトやその場から離す対応で一貫して対処し、落ち着いてから短く説教するに留めます。「怒る」と「叱る」は全く別であり、感情的に怒ってしまう自分に気づいたときこそ、立ち止まってください。親子関係を見直す、他者に支援を求めるチャンスです。
親のストレスマネジメント
イヤイヤ期の対応には親の忍耐力が試されます。完璧にこなそうとすると疲弊しますので、適度に手を抜きリフレッシュすることも必要です。子供の写真や動画を見返すと、初めて歩いたときのこと、初めて「ママ(パパ)」と呼んでくれたときの喜びや幸福感を思い出し、忍耐力が回復するかもしれません。また、周囲にサポートを求めることは決して怠けではありません。配偶者や親族と交代で休息を取り、一時保育やファミサポを利用して自分の自由時間を確保するのも良いでしょう。もし、お金にも不安があり、相談先に悩むときは地域の子育て支援センターや相談窓口に悩みを打ち明けるだけでも、気持ちが楽になることがあります。同じ年代の子を持つ親と交流することも重要で、「うちも同じ!」「どこの家庭でも苦労しているんだな」と共感し合え、心強いものです。親自身の心の健康が保たれてこそ、子どもに穏やかに向き合えます。
その他、必要時に気を付けるポイント
必要に応じ専門家へ相談
多くの場合、イヤイヤ期の癇癪や反抗は成長とともに治まりますが、極端に激しい場合や他の発達の遅れが疑われる場合は早めに専門家に相談しましょう。例えば、言葉の遅れが著しく3歳を過ぎても指差し・発語がほとんど無い、癇癪の際に自傷他害が見られる、5歳以降になっても毎日のように癇癪を起こして生活に支障が出ている、といったケースでは小児科医や発達の専門医による評価が必要かもしれません。発達障害や感情調節の障害など、背景に何らかの問題が潜んでいる可能性もあります。一方で大きな問題がなくても、親子教室や育児カウンセリングを利用することで対応のコツを専門家から学べる場合もあります。アメリカではParent-Child Interaction Therapy(PCIT)など親子関係を改善するプログラムが有効性を上げています。日本でも自治体の子育て支援事業の一環で親向けプログラムが提供されていることがあります。困ったときは抱え込まないでください。専門家の力を借りることは決して恥ずかしいことではありません。
この時期は必ず終わる
最後に、イヤイヤ期は永遠に続くものではないことを覚えておいてください。多くの子どもは就学頃になると癇癪を起こす頻度が激減し、親の言うことに耳を傾け話し合いができるようになります。イヤイヤ期の真っ最中は「うちの子はずっとこのままでは…」と不安になるかもしれませんが、大丈夫です。成長とともに脳の前頭前野が発達し、自制心や他者の気持ちを考える力が育てば、あれほど激しかった反抗も影を潜めます。「イヤイヤ期になったか。嬉しいな、成長の証だね」と成長を喜ぶ余裕を持ちたいものです。親の穏やかな愛情と適切な関わりは、子どもの情緒発達を助け、イヤイヤ期を乗り越える大きな力になります。どうか肩の力を抜いて、子どもの健全な自我の育ちを長い目で見守ってください。
「ダメ!」を減らすには、環境と生活リズムの見直しが鍵。体罰や怒鳴る行為は逆効果であり、冷静な対応が基本。
親の一貫した対応と、子どもの小さな成功体験が大切。「良い行動」には積極的に注目し、癇癪には過剰反応しない。
感情と言葉を結びつけることで癇癪は減っていく。日頃から親が子供の気持ちを言葉にしてあげる心がけを。
親のストレスケアは、子どもとの関係を守る第一歩。困ったときは一人で抱え込まず、支援を求める勇気を。
次回の記事では、年齢ごとのイヤイヤ期について医学的な背景と対応策についてまとめていきます。実際に癇癪を起こしてしまった際の参考になればと思いますので、是非お読みください。
参考文献・情報源
- 米国小児科学会(AAP).
“Guidance for Effective Discipline.” American Academy of Pediatrics, 2018. - Centers for Disease Control and Prevention (CDC).
“Temper Tantrums – Essentials for Parenting Toddlers and Preschoolers.”
https://www.cdc.gov/parents/essentials/behavior/tantrums.html - 厚生労働省 子ども家庭局母子保健課.
「乳幼児身体発育調査結果報告(2020年度)」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/73-22.html - StatPearls Publishing – Pediatric Temper Tantrums
Mackie, T.I. & Zima, B.T. (2022). “Temper Tantrums.” StatPearls [Internet], National Library of Medicine. - American Academy of Child and Adolescent Psychiatry (AACAP).
“Discipline: Managing Your Child’s Behavior.”
https://www.aacap.org - Zero to Three(米国非営利研究機関).
“Your Toddler’s Behavior: What’s Normal?”
https://www.zerotothree.org - Erikson, E.H. (1950).
Childhood and Society. W. W. Norton & Company. - 菅原ますみ 他. (2012).
「育てにくさを感じる乳幼児の保護者支援の実践的検討」日本小児保健協会雑誌, 71(3): 290–296. - 中野良吾 他. (2015).
「保育園児の癇癪の頻度と関連要因に関する疫学的研究」小児心理学研究, 17(1): 45–54. - Parent-Child Interaction Therapy (PCIT) International
https://www.pcit.org