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「勉強好き」になる育て方 ①乳児期(0~1歳)

こんにちは、Dr.流星です。

子どもが「勉強好き」になるには、単に勉強を強制するだけではなく、その成長段階に応じたアプローチが大切です。脳の発達や報酬系(モチベーション)の仕組み、親の関わり方、そして学習環境の整備など、科学的な視点から適切なサポートを行うことで、自然と学びに向かう心が育ちます。

本シリーズでは、乳児期から大学生まで、「勉強好き」を育てるためのポイントを年代別に整理し、日常で取り入れやすい具体的な方法を紹介します。育児や教育に役立つ知識として、ぜひ参考にしてみてください。

今回は、「学ぶ意欲」の基礎となり、脳の発達に重要な時期である乳児期についてみていきましょう。

脳の発達と学習

人生で最も急速に脳が成長する時期です。誕生時、赤ちゃんの脳は大人の約25%の大きさですが、1年でほぼ倍に成長し、3歳で80%、5歳で約90%に達します。この時期の脳は神経可塑性が非常に高く、経験によって神経回路がどんどん作られていきます。ポジティブな刺激や体験が豊富だと、問題解決や共感など高次能力の基盤となる回路が十分に形成され、将来の学習能力の土台になります。逆に刺激が乏しいと必要な回路が十分発達せず、後から育もうとしても苦労する可能性があります。つまり、スタートダッシュが肝心です。この時期から脳への刺激を与え、色々な体験をさせていきます。例えば、生後数か月の赤ちゃんに話しかけたり歌いかけたりすると、言語や聴覚の回路が活性化し発達を促します。実際、「見る・聞く・触れる」といった日々の働きかけが脳内のシナプス結合を強め、1秒間に百万以上もの新たな神経接続が形成されるとされます。このように、乳児期は豊かな刺激と愛情が脳の健全な発達に直結するのです。

報酬系(モチベーション)の芽生え

乳児期の赤ちゃんにも内発的動機づけの萌芽が見られます。赤ちゃんは「自分の行動で物事が起きる」ことに喜びを感じます。例えば、足にリボンを結んでモビール(つるしたおもちゃ)に繋ぐ実験では、赤ちゃんは自分が足を動かすとモビールが揺れると気づき、何度も熱心に足をバタつかせます。モビールが動くという成功体験そのものが快感(ドーパミンの報酬)となり、もっとやりたい!と感じるのです。このように「うまくできた!」という体験がごく幼い時期から脳の報酬回路を刺激し、学ぶ意欲の原初的な形となっています。一方、赤ちゃんは外発的報酬(お菓子やごほうび)はまだ理解できません。この時期は好奇心そのものが最大の原動力です。親は笑顔や拍手で反応し、「できて嬉しいね」「もっとやってみようか」と明るい声のトーンで肯定的なフィードバックを与えることで、脳内のドーパミン報酬系を健全に育むことができます。乳児期は「環境に働きかけると楽しいことが起きる!」という内発的な報酬体験を積ませることが大切です。

親の関わり方

乳児期の子どもにとって、親(養育者)との安定した愛着関係が何より重要です。大人が赤ちゃんの要求や発信に一貫して応答することで、赤ちゃんの脳内に安心感が生まれ、探究意欲が育ちます。例えば、赤ちゃんが「あー」「うー」と喃語を発したら笑顔で返事をし、おむつが濡れて泣いたらすぐ取り替える、といった「レスポンシブな関わり」は脳の健全な発達を支えることが科学的に示されています。このような温かく安定したやりとり(いわゆる“サーブ&リターン”)があると、ストレスホルモンが抑えられ、安心して周囲を探索し、学ぶことができるのです。逆に、親が極度に不安になったり過剰に怖がらせたりすると、赤ちゃんもその恐怖を学習してしまい、新しい体験への意欲を失わせる可能性があります。医学的にも、一次的養育者の不安は乳児に「学ぶより避ける」脳回路を植え付け得ると報告されています。ですから、親は笑顔で話しかけたり、「上手にできたね」と優しく声をかけたりして、赤ちゃんが安心して挑戦できる雰囲気を作りましょう。具体例としては、赤ちゃんがガラガラを振ったら「上手上手!」「音が出たね!」と褒めたり、ハイハイで進んだら「やったね!」と拍手するなど、小さな達成に対して肯定的な反応を返すことが挙げられます。これらの積み重ねが「学ぶって楽しい」「やってみたい」という気持ちの芽を育てます。

学習環境の整備

乳児期の学習環境で大切なのは、安全で刺激的であることです。例えば、カラフルなおもちゃを目に見える所につるしたり、触って音が出る玩具を与えたりすることで感覚への適度な刺激を提供できます。また床に柔らかいマットを敷いて自由に動ける空間を作り、周囲に興味深い物を配置すると、自発的な探索行動が促されます。一方で、過度な騒音や混乱のある環境は避けましょう。研究によれば、騒がしくストレスフルな環境で育つ子どもは「恐れに基づいて行動する(失敗や害を避けることに注力する)」動機づけパターンになりやすいのに対し、静かで予測可能な環境で育つ子は「好奇心(新しいものを求める意欲)」と「警戒心」がバランスよく育つとされています。動物実験でも、慢性的なストレス環境では脳内の「報酬を感じる領域」が狭まり、「恐怖を感じる領域」が拡大したのに対し、静かで落ち着いた環境ではその逆の変化が見られました。つまり、赤ちゃんには穏やかで安心できる生活リズムと環境を整えることが、将来的に意欲的に学ぶ姿勢につながるのです。具体的には、テレビや大きな音は長時間流さず、優しい音楽や親の声を中心にした音環境にする、寝ているときは明るい環境は避け、部屋の明るさを昼夜で調節し睡眠リズムを安定させる、といった工夫が考えられます。また、赤ちゃんが安全に遊べるスペースを確保し、有害な物や危険な場所には行かないよう配慮しましょう。視覚的にも、カラフルなおもちゃで興味を引きつけつつ、一度に与えるおもちゃは少数にして散漫にならないようにします。乳児期の環境づくりは「安心・安全」が第一ですが、その中に「見るもの聞くもの全てが学びにつながる」くらい豊かな刺激を散りばめてあげることがポイントです。

乳幼児期(0〜3歳)

  • 脳の発達
    • シナプス形成が急速に進む時期で、感覚刺激が脳のネットワーク形成に重要。
    • この時期の経験が情動制御や学習能力に大きな影響を与える。
  • 報酬系
    • 好奇心が自然な学習の原動力となる時期。親の反応が強力な報酬として機能。
    • 笑顔や褒め言葉で脳内報酬系が活性化され、学習意欲が高まる。
  • 親の関わり方
    • 笑顔で素早く応答し、子供が示す興味に共感する。
    • 簡単な成功体験を積み重ね、「できた!」という達成感を育む。
  • 学習環境
    • 五感を刺激する多様な環境(音楽、色彩、触感)を提供。
    • 穏やかで安心できる生活リズムと環境を整える。
参考文献・情報源
  1. 乳児期の脳発達
    • Shonkoff, J. P., & Phillips, D. A. (Eds.). (2000). From Neurons to Neighborhoods: The Science of Early Childhood Development. National Academy Press.
    • Johnson, M. H. (2005). Developmental Cognitive Neuroscience. Wiley-Blackwell.
  2. 内発的動機づけと報酬系
    • Ryan, R. M., & Deci, E. L. (2000). Intrinsic and Extrinsic Motivations: Classic Definitions and New Directions. Contemporary Educational Psychology, 25(1), 54-67.
    • Galván, A. (2013). The Teenage Brain: Sensitivity to Rewards. Current Directions in Psychological Science, 22(2), 88-93.
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  3. 学習環境と家庭の影響
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    • Sanders, M. R., & Mazzucchelli, T. G. (2013). The Power of Positive Parenting: Transforming the Lives of Children, Parents, and Communities Using the Triple P System. Oxford University Press.
  4. 学習習慣と学力
    • Dweck, C. S. (2006). Mindset: The New Psychology of Success. Random House.
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  5. 睡眠と学習の関係
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  6. 思春期の脳の発達
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  7. 家庭の学習支援と親の関わり
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この記事を書いた人

Dr.流星 – 現役の精神科医であり、父親として日々子育てに奮闘中。
「科学的根拠に基づいた育児」をテーマに、子どもの心と脳の発達、メンタルケアについて情報を発信しています。現役パパだからわかる子どもの発達に関するリアルな悩みに寄り添いながら、家庭で実践できるヒントも紹介。ガジェット好きでもあり、育児に役立つ家電や子育てグッズを色々と試しています。子育ての悩みを軽減し、家族のメンタルヘルスを良好に保つ…そんな子育てに役立つ知識をお届けしていきます。