MENU

「勉強好き」になる育て方 ②幼児期(1~5歳)

こんにちは、Dr.流星です。

幼児期は、子どもが自らの力で世界を探索し始める時期です。言葉を覚え、物を数えたり、物語を楽しんだりする中で、脳の神経回路はさらに強固になり、思考力や想像力が育ちます。この時期に豊かな体験や多様な刺激を受けることで、子どもの「知りたい」「やってみたい」という内発的な動機づけが育まれます。

今回は、幼児期における脳の発達、報酬系の働き、親の関わり方、そして学習環境の工夫について、科学的な知見に基づいて解説します。毎日の遊びや声かけが子どもの成長にどう影響するかを、一緒に見ていきましょう。

脳の発達と知的好奇心

幼児期は脳の重さがほぼ大人並みに達し(5歳で90%)、神経回路の配線も盛んに行われている時期です。特に言語発達が著しく、語彙が爆発的に増え、簡単な文章で話せるようになります。また、この頃から想像力や模倣が活発になり、「ごっこ遊び」などを通じて創造的思考や社会性も育ちます。神経可塑性が高い幼児期には、多様な体験をすることで脳内のシナプス結合がさらに強化されます。例えば、公園で体を動かす遊びは運動機能だけでなく空間認知問題解決力(どう遊具で遊ぶか工夫する等)を育てますし、絵本を読む体験は言語能力とともに想像力感情認知を発達させます。また、この時期に身についた基礎的なスキル(言葉遣い、数概念、手先の器用さなど)は後の学習の重要な土台となります。脳科学的には、幼児期はシナプス結合が過剰に形成され、後の小学校期以降に使われない回路が刈り込まれる準備段階でもあります。したがって、この時期に色々なことに興味を持ち、試行錯誤する経験を積ませると、将来残るべき有用な回路が十分に形成されやすくなります。一方、何もしなければ回路が弱まり刈り込まれてしまうので、幼児期は「遊び=学び」としてできるだけ豊かな経験をさせることが重要です。具体的には、砂場遊びで創造力を育んだり、一緒にクッキーを作って計量の概念に触れるなど、楽しみながら脳を働かせる機会を意識しましょう。

報酬系(内発的・外発的動機づけ)

幼児は親や周囲の大人から褒められることをとても喜び、行動の原動力にします。「よくできたね!」「頑張ったね!」といった声かけは幼児の脳内で報酬系を活性化し、もっと頑張ろうという意欲につながります。特に努力やプロセスを褒めることが重要です。スタンフォード大学の研究では、1~3歳児の親が日常で「努力」を褒める言葉を多くかけていると、子どもは小学生になった時に「能力は伸ばせる」という成長型の考え方を持ち、難しい課題にも意欲的に取り組む傾向が高まることが示されています。逆に能力そのものを褒める(「天才ね」「頭いいね」)ことが多いと、失敗した時に「自分には才能がない」と固定的に捉えやすくなる可能性があります。このため幼児期は、結果より過程を評価する声かけを意識しましょう。例えば、お片付けを頑張ったら「全部片付けられて偉いね」と結果を褒めるだけでなく、「最後までがんばって片付けたね。あの積み木は片づけるの大変だったんじゃない?」と努力・過程に言及します。こうした内発的動機づけへの働きかけに加え、幼児には適度な外発的動機づけも有効です。シールやスタンプなどのご褒美は、短期的に習慣づける手助けになります。ただし、注意したいのは過度なご褒美は逆効果になり得ることです。心理学の古典的実験で、絵を描くことが元々好きな子に「絵を描いたら賞をあげる」と約束すると、賞がなくなった後に以前より絵を描かなくなったという結果が報告されています。この「過剰なご褒美による興味減退(過正当化効果)」は幼児期にも現れ得ます。したがって、ご褒美は毎回与えるのではなくサプライズ的に時々取り入れる、あるいは本人が意識しない形(やり遂げた後で「今日は頑張った特別に○○しようか」と予告なしに与える)にすると良いでしょう。また、「なぜ?」と質問攻めになる時期でもありますが、これは知的好奇心の表れです。忙しい時でも頭ごなしに「あとでね」「知らない」と遮らず、簡単にでも答えてあげることで、質問する→答えが得られるという知的満足感を与えられます。こういった対応を続けることで知ることの喜びが報酬となり、「もっと知りたい」という内発的な学ぶ意欲が育ちます。

親の関わり方

幼児期は親が一番の教師です。まず、日常生活そのものを学びの場にすることが効果的です。例えば買い物に行けば「りんごはいくつあるかな?」と数を数えさせたり、散歩中に見えるものを質問したら答えてあげたりしましょう。こうした声かけによって、子どもは遊びの中で数や言葉の概念を自然と身につけます。また読み聞かせも非常に重要です。家庭で本の読み聞かせをしてもらった子どもは、読解力や語彙が向上し、読書への興味や態度も良好になることが研究で示されています。寝る前の習慣として毎日絵本を読むようにすると、子どもは本が好きになり、これが後の自主的な読書習慣の基盤となります。親は絵本の登場人物になりきって楽しそうに読んだり、読み終わった後に感想を話し合ったりすると良いでしょう(「絵本は1日どれくらい読んだらいいの?」などの質問には今後まとめてお答えする記事を掲載予定です)。さらに、幼児は親の真似をしたがるので、親自身が学ぶ姿勢を見せることも大切です。例えば、親が新聞や本に目を通す時間を持ったり、新しい料理や工作にチャレンジする姿を見せたりすると、子どもは「大人も色々学んでいる」と感じます。教育心理学ではモデリング(手本)効果と呼ばれますが、親が好奇心旺盛に知識を得ようとする態度はそれ自体が子どもへの良い刺激です。「ママ(パパ)も知らないから一緒に調べてみよう」と声をかけ、親子で図鑑を開くような体験も素晴らしいでしょう。親が「知らない」ことを認める姿勢を見せていると、子どもも自分が知らないことを恥ずかしがらず(知ったかぶりになりにくい)、知らないことへの興味を維持することができます。また、習慣づけの支援も欠かせません。この時期から「毎日少し座ってお絵描きや調べものをする時間」を設けておくと、小学校以降の勉強習慣がスムーズに身につきます。文部科学省も、幼児期からの家庭教育において親が子どもの意欲を支え、学習環境を整えることが子どもの主体的な学びに繋がるとしています。例えば、3歳頃から簡単なワークブックを親子でやる習慣を付け、「できたね!」「明日もやろうね」と励ますと、子どもは勉強を特別なことと思わず生活の一部として受け入れやすくなります。幼児期の親の役割は「遊び上手な先生」になることであり、怒って勉強させる必要は全くなく、遊びや生活の中で知的好奇心を育み、「学ぶことは楽しい!」という感情と習慣を丁寧に築いていきましょう。

学習環境の工夫

幼児期の家庭環境づくりでは、安全で自由に遊べて学べる空間を用意します。具体的にはリビングの一角にお絵描き用の小さな机とイスを置いたり、床にシートを敷いてブロックやパズルで遊べるコーナーを作ったりします。子どもの手の届く場所に絵本やおもちゃを整理しておくと、自分で好きな物を取り出して遊ぶ自主性が育ちます。一方で、一度に与えるおもちゃの数は適切に制限し、終わったら片付ける習慣も教えましょう。テレビやタブレットなどの長時間視聴はできるだけ控えめにします。米国小児科学会なども2歳までは原則スクリーンメディアなし、幼児でも時間を制限すべきと勧告していますが、画面に集中しすぎると受動的になり、自発的な遊びや対人交流の機会が減るためです。音環境も静かすぎて無音である必要はありませんが、大人向けテレビ番組の騒がしい音や雑踏音より、童謡やクラシック音楽、小鳥のさえずり音など穏やかな音の方が子どもの情緒を安定させます。また照明や視覚環境にも配慮しましょう。日中はできるだけ自然光を取り入れ、部屋を白に近い光で明るくします。自然光は子どもの発達に多くの利点があり、学習面でも明るい環境の方が集中力や認知力が高まるとの研究があります。また、動画視聴やゲームをした場合でも、明るい場所(屋外が望ましい)で遠くを見ることで眼科的にもいい影響があると言われています。壁にはひらがな表や数字ポスターなど教育的な視覚刺激を貼るのも良いですが、注意力を阻害する可能性があるため貼りすぎには注意です。研究によれば、壁にポスターや掲示物があふれた環境では幼児は注意散漫になり学びが妨げられる傾向があります。適度にカラフルで魅力的でありつつ、子どもが集中したい時には過剰な「視覚のノイズ」にならない環境を目指しましょう。例えば、アルファベット表を貼るなら一枚に留め、他は無地の壁にする、玩具も使うものだけ出し、他は見えない収納に入れる、といった工夫です。最後に、安全面ではコンセントにカバーをする、誤飲しやすい小さな物は手の届かない所に置くなど基本的な対策をして、安心・安全を確保した上で、幼児が「自分の好きな時に学び遊べる居場所」を整えてあげることが、好奇心と学習意欲を伸ばす下地になります。

幼児期(1~5歳)

  • 脳の発達
    • シナプス結合が過剰に形成され、不要な回路が刈り込まれる時期。
    • 言語能力や空間認知力が急速に発達。
  • 報酬系
    • 努力を褒めると成長型マインドセットが形成されやすい。
    • 過度なご褒美は内発的動機を損なう可能性がある(過正当化効果)。
  • 親の関わり方
    • 日常の遊びや会話が学びの基本。「学ぶのは楽しい!」と思わせる。
    • モデリング効果:親が学ぶ姿勢を見せると子も影響を受けやすい。
  • 学習環境
    • 適度な視覚刺激、整理されたおもちゃの配置が効果的。
    • 部屋を明るく保ち、テレビやタブレットは最低限にして長時間視聴は控える。
参考文献・情報源
  1. 乳児期の脳発達
    • Shonkoff, J. P., & Phillips, D. A. (Eds.). (2000). From Neurons to Neighborhoods: The Science of Early Childhood Development. National Academy Press.
    • Johnson, M. H. (2005). Developmental Cognitive Neuroscience. Wiley-Blackwell.
  2. 内発的動機づけと報酬系
    • Ryan, R. M., & Deci, E. L. (2000). Intrinsic and Extrinsic Motivations: Classic Definitions and New Directions. Contemporary Educational Psychology, 25(1), 54-67.
    • Galván, A. (2013). The Teenage Brain: Sensitivity to Rewards. Current Directions in Psychological Science, 22(2), 88-93.
    • Deci, E. L., Koestner, R., & Ryan, R. M. (1999). A meta-analytic review of experiments examining the effects of extrinsic rewards on intrinsic motivation. Psychological Bulletin, 125(6), 627-668.
  3. 学習環境と家庭の影響
    • Evans, G. W., & Wachs, T. D. (Eds.). (2010). Chaos and Its Influence on Children’s Development: An Ecological Perspective. American Psychological Association.
    • Sanders, M. R., & Mazzucchelli, T. G. (2013). The Power of Positive Parenting: Transforming the Lives of Children, Parents, and Communities Using the Triple P System. Oxford University Press.
  4. 学習習慣と学力
    • Dweck, C. S. (2006). Mindset: The New Psychology of Success. Random House.
    • Duckworth, A. L., & Seligman, M. E. P. (2005). Self-Discipline Outdoes IQ in Predicting Academic Performance of Adolescents. Psychological Science, 16(12), 939-944.
    • Heckman, J. J., & Kautz, T. (2013). Fostering and Measuring Skills: Interventions That Improve Character and Cognition. NBER Working Paper No. 19656.
  5. 睡眠と学習の関係
    • Walker, M. P. (2017). Why We Sleep: Unlocking the Power of Sleep and Dreams. Scribner.
    • Carskadon, M. A., & Tarokh, L. (2014). Developmental changes in circadian biology and sleep regulation. In G. G. National Research Council (Ed.), Sleep Disorders and Sleep Deprivation: An Unmet Public Health Problem. National Academies Press.
  6. 思春期の脳の発達
    • Blakemore, S. J., & Mills, K. L. (2014). Is Adolescence a Sensitive Period for Sociocultural Processing? Annual Review of Psychology, 65, 187-207.
    • Casey, B. J., Jones, R. M., & Hare, T. A. (2008). The Adolescent Brain. Annals of the New York Academy of Sciences, 1124(1), 111-126.
  7. 家庭の学習支援と親の関わり
    • Grolnick, W. S., & Ryan, R. M. (1989). Parent Styles Associated with Children’s Self-Regulation and Competence in School. Journal of Educational Psychology, 81(2), 143-154.
    • Pomerantz, E. M., Moorman, E. A., & Litwack, S. D. (2007). The How, Whom, and Why of Parents’ Involvement in Children’s Academic Lives: More Is Not Always Better. Review of Educational Research, 77(3), 373-410.
シェアお願いします!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

Dr.流星 – 現役の精神科医であり、父親として日々子育てに奮闘中。
「科学的根拠に基づいた育児」をテーマに、子どもの心と脳の発達、メンタルケアについて情報を発信しています。現役パパだからわかる子どもの発達に関するリアルな悩みに寄り添いながら、家庭で実践できるヒントも紹介。ガジェット好きでもあり、育児に役立つ家電や子育てグッズを色々と試しています。子育ての悩みを軽減し、家族のメンタルヘルスを良好に保つ…そんな子育てに役立つ知識をお届けしていきます。